10 ガルマ散る
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タイトルの通り「ガルマが散る」回なのだが、「散る」ことは既に先週で予告しているのだから脚本上は実は今回の「主」ではない。問題は「散った」男とは結局「誰」だったのかということで、これこそが今回大急ぎ、突貫工事で描かなければいけないことのはずだ。
というのも、ここまでのガルマは本当にまったく、まーーーったく一切、いいところなしだったからだ。お坊ちゃんで戦略や戦術はいつも外してばかりの三連敗。デリカシーにかける発言を連発もすれば、部下や兵士、他人の気持ちを理解することもまったくできない。それがガルマだった。そんな男が冷酷な戦場で「散った」ところでドラマとしては「だから何」「そりゃそうだ」だろう。散ったこの男が「誰」で、「なぜ」死んだのか。それこそが描かれなければならない。
成長するブライトと成長できないガルマ
まず重要なのが、ブライトとガルマの対比だ。この二人はここまでのガンダムが誇る、二大「無能」司令官であり、二大「坊ちゃん」なのだが、今回はこの二人の無能司令官対決になっている(「強さ比べではなく実は弱さ比べ」がガンダムの美学だったりもする)。
ここまでのブライトの指令や判断はたいていすべて間違っていた。ブライトが「敵は襲ってこない」と言えばそれは敵は襲ってくるフラグだったし、「ガンダムを出撃させるべきではない」とブライトが判断したなら、それは「ガンダムを出撃させるタイミングは今しかない」という意味。それくらいブライトの判断はすべてをハズしていた。
そんなブライトが今回、「自分が陽動になります!」というアムロの積極的な提案(前回「二度とガンダムに乗るもんか」とまで言っていたのがウソみたいだ)を拒否してまで提示した作戦が「敵から発見されるのを防ぐため雨天野球場にホワイトベースを隠しすべての機能を停止、その間に敵の動きをつかんで突破口をつかむ」だった。
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ミライ:どういうこと?
これを聞いた瞬間自分もミライさんとまったく同じ顔をしてしまった。もうこれ、今までだったら完全にブライトのフラグのはずだ。ところが、今回はこの作戦がドハマりし、ホワイトベースが圧勝する。「無傷で木馬を手に入れるぞ」などと言っていたガルマだったが、その命までかけた特攻にもかかわらず、ホワイトベースは本当に無傷。ブライトの作戦の巧みさはあのシャアすら称賛するほどだった。
シャア:連中も戦いのこつを飲み込んできてるのさ
シャア:なるほどいい作戦だ あだ討ちをさせてもらう
ここでの「いい作戦」はガルマへの仇討ちをするというシャア自身の目的にとってちょうど都合の「いい作戦」という意味も含まれてはいるが、とはいえ、素直にブライトを褒めてもいるのだろう。
というのもシャアは「リスクを取る」虎穴に入らずんば虎子を得ずが大好きだからだ。今回のブライトの作戦は一歩間違えれば文字通り袋の中のネズミ。けれども、だからこそホワイトベースは無傷で圧勝することができた。ブライトは無能だが成長する無能なのである。
そんな成長するブライトと対照的に描かれているのがガルマなのだから、ガルマとは誰か。その最初の答えは「ガルマとは成長を奪われた無能」だということになる。
ガルマが成長を奪われているのはなぜか。ジオン公国総帥の息子にしてその末弟だからだ。
人が成長するとはどういうことか。学ぶということだ。学ぶとはどういうことか。リスクを冒しチャレンジし時には失敗もすることだ。シャアが強いのは常に戦場でリスクを取りつづけ、いくつもの死線をくぐりぬけてきたからだ。アムロのガンダムが強いのもガンダムに教育型コンピュータが搭載されており、戦闘というリスクを冒すほどその結果が学習されていくからだった。
ところがガルマにはこの成長するために必要な「リスクを冒しチャレンジする」という機会が圧倒的に欠けていた。なぜ欠けていたかというと、これはもう大事に大事に育てられすぎてしまったザビ家の末弟だからだと考えるしかないだろう。だからシャアの
シャア:フッフッフッ ガルマ 聞こえていたら君の生まれの不幸を呪うがいい / 君はいい友人であったが 君の父上がいけないのだよ
という発言に込められているのは、単にシャアの仇だからガルマは死ぬことになったという意味だけではない。根源にあるのは、日々成長しアップデートしなければ生き残れない世界で、その成長機会をあらかじめ奪われた男の不幸だという意味も、そこには込められているんじゃないだろうか。
生まれのおかげで/生まれのせいでのダブルバインド
ここからは「ガルマ・ザビとは誰か」に対し、さらに一段抽象化した答えが出てくる。ガルマ・ザビとは「親がなければ何一つ手に入れることができないが、親のせいで何一つ手に入らないことが運命づけられた」矛盾そのものである。
ガルマにいいところなんか何もないと冒頭で書いたが、ある。そのルックスだ。女性にめちゃくちゃモテる(今回そういう描写もある)。国民からの人気も高いのだろう。まるで小泉進次郎みたいに。けれどもルックスや見た目、国民的人気などというものはすべて遺伝だったり、生まれだったりで説明がついてしまう。「親のおかげ」「生まれ」でしかない。とまあ、こんな感じで彼がゲットしているものはすべて基本「生まれ」のおかげでしかない。
では、彼には、その家柄や生まれに関係なく、自分が心からほしいと思うもので、「自分の力で手に入れた」ものはないのか。ある。恋人のイセリナだ。
この恋人のイセリナだけは、その家柄や生まれと関係なくガルマを愛してくれているし、ガルマもイセリナをただ一個の個人として愛している。二人はロミオとジュリエットよろしく、親同士がその結婚を認めない仲。イセリナの父親のエッシェンバッハは元市長で、自分の街を破壊しつくし、占領したジオンのことをとにかく憎んでいる。ガルマの父ギデンも当然息子には「しかるべき妻」を持たせようと考えているだろうから二人の仲を認めていないようだ(そういう描写がある)。
だから、ガルマがイセリナを、イセリナがガルマを好きになり、お互いがお互いを「得た」のは「生まれ」や「親」とは関係ない。一見そのように思える。しかし、実はこれすら「生まれ」がないと成立していない。
まず、二人が出会ったのは、ジオンがエッシェンバッハの都市を破壊し占領したからだ。これは言い換えると「絶対に結婚が認めてもらえなくなることをしないと二人は出会えなかった=結婚しようという話にすらならなかった」ということだ。矛盾である。
また、二人が恋したのはなぜだろうか。人間の心理の問題だから、そこにはさまざまな説明が可能だろうが、共通点が二人を近づけたというのはありそうなことだ。ではガルマとイセリナの「共通点」とは何か。それは二人とも「親のおかげで/親のせいで」というダブルバインドに苦しんでいることだろう。
「いい家に生まれて親から溺愛されているがゆえの苦悩」。これは実は苦悩なのだが、苦悩であるということが他者にはなかなか理解してもらえないタイプの特殊な苦悩である。占領するジオンの息子と占領された市長の娘。その立場、利害関係はまったく真逆だが、二人は相手に「自分と同じ苦悩」を見た。だからここそ惹かれあったのではないか。
となると、皮肉な逆説だが、二人がお互いを愛するようになったのも「生まれ」のおかげだった、ということになる。
これらのことから考えると、つまり、ガルマにとってイセリナですら実は「生まれ」がないと手に入らなかったことになる。ところが、この「生まれ」のせいで二人は一緒になることができず、そしてガルマも死ぬしかなくなる。だから、ガルマとはそんな矛盾そのものなのだ。もう一段階抽象化すれば「幸福になるために不幸になることが運命づけられた矛盾」「生きるために死ぬことが運命づけられた矛盾」。それこそがガルマということになる。
そして、そんなガルマの矛盾したあり方は我々視聴者にとっても他人事ではないどころか、そもそも人生とはそうした矛盾それ自体だという気持ちがしてくる。そんなガルマが「散る」のである。
ガルマがイセリナと結婚するには、父親=ギデンに認めてもらわなければならない。そのためには連邦軍の機密であるホワイトベースを手に入れる必要がある(そうガルマは考えている)。そしてホワイトベースを手に入れるために......ガルマはなんと街全体に絨毯爆撃をしかけるのである。イセリナと一緒になるために、イセリナの「生まれ」育ったであろう街を破壊しつくすガルマ。そんなことをすればするほど、イセリナの父からしたら結婚を絶対認められなくなるのだが。
ガルマとイセリナが一緒になるためには
では、ガルマがイセリナとそれでも一緒になるためにはどうすればよかったのか。イセリナは言う。
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イセリナ:たとえ父を裏切ろうと 私はあなたのおそばにおります。
これに対しガルマは言う。
ガルマ:私も父とジオンを裏切るわけにはゆきませんが...大丈夫 今連邦軍の機密を手に入れるチャンスなのです それに成功すれば父とて私の無理を聞き入れてくれます それで聞き届けてもらえねば 私も...ジオンを捨てよう
父を裏切ってもいいと言ってるイセリナに「私も裏切るわけにはゆかない」と言うガルマ。「Je t'aime(愛してる)」に「Moi non plus(俺もそうじゃない)」と答えるセルジュ・ゲーンスブールみたいだが、ここからわかるのは「ガルマとイセリナの気持ちは実は完全には同じではなかった」ということだ。
ガルマの話は仮定が多すぎる。機密を手にいれば結婚できるかどうかもわからないし、機密入手に成功するかどうかもわからない。それらすべて試してみてダメだったらイセリナと同じく自分もジオンを捨てようとまで言うのだが、「試す」のはかなり大きなリスクである。
本当にイセリナがジオンより大事なら、今すぐイセリナと駆け落ちでもなんでもすればいい。ところがイセリナにはそれができても、ガルマにはそれができない。なぜならガルマは①ザビ家の②男だからである。
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ガルマ:うう...私とてザビ家の男だ 無駄死にはしない!
死ぬ間際、最後に叫ぶこの男の一言は「イセリナすまない」「愛している」ではない。戦時中前線でラブロマンスにふけるような無能なお坊ちゃんなのだが、それでも最後に叫ぶ一言は「ジオン公国に栄光あれ!!」。それがガルマなのだ。
ガルマはどうしても自分の「生まれ」を捨て去ることができない。それを捨ててしまったら「ザビ家の男」でなくなる、つまり自分ではなくなるからだ。
だから、ガルマは特攻をしジオン公国の名を叫んだ後に、イセリナの顔がフラッシュバックするのである。
その他気になるところ
今回戦闘している人間、みんな「戦う理由」が違うし、誰もジオンにも連邦にも忠誠を誓ってない。
シャア:ガルマへの仇討ち。
ガルマ:イセリナのため。
アムロ:シャアを倒す。
特にシャアは今回明らかに「一線を越えた」んだよね。
ジオン公国悪そすぎ問題
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いや、悪そすぎやろ。
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悪そすぎすぎやろ。
ガルマのガウとブライトのホワイトベースを対照的に描くために、同じセリフを言わせてるのがニクい。
ブライト:180度回頭!
ガルマ:180度回頭だ!
まったく同じセリフをブライトとガルマにさせている。180度回頭、つまり振り向いて打ち合うってことで、まるで西部劇のガンマンの早撃ち対決を想起させる。
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